散花嘆くなかれ。 1 夏真っ盛り。大学構内は比較的緑が多く、その為日陰も多い。しかし勤勉なる学生諸君は、暑いからといって日陰に避難してはいない。―――単に、炎天下の外にいるくらいなら、憂鬱な講義であろうとエアコンの効いた屋内でテキストを防護壁に昼寝をしようと、そう思うだけだ。 そんな中――― 熱気を溜めこんだ挙句容赦なく吐き出すコンクリィトを跳ねるように除け、建物近くの木陰に飛びこんだ者が一人。 「あっつ〜…」 ジャッキー・トノムラ、この大学の卒業生であり、同構内にある大学院に在学中。学部一年生からが入り混じる構内では年長の部類に入るのだが、その顔の造り故に、黙っていれば外見上怪訝な顔をされることもない。 彼は少し前に、学部時代から付き合っていた某氏と遂に―――念願のというか、とうとうというか―――生涯を共にする誓いを立てた。 彼自身が望んだ事でもあったので、そのつまり、何だ、有体に言うと、彼は現在ハッピー蜜月ライフ満喫中なのである。私生活が充実すれば(彼の場合余計なところで充実しすぎな感も無きにしもあらず)仕事や学業にもプラスとなる。…逆のパターンを行く人もいるかもしれないが。 まあその辺は別のお話を読んでもらうとして、今回の主役は、彼ではない。ちなみに彼の伴侶でもない。 「ジャッキー〜」 やや遠方から、妙に間延びした呼び声が聞こえ、トノムラは手で庇を作りながら声のした方を向いた。庇はそのまま、向かってくる人物に対する手招きになる。 「アーサー、おはよ」 「おはよ〜っても、もう昼過ぎだけどさ。今日授業?」 「と思って来たんだけど、休講になった」 「マジ?暑いからラッキーだけど、暑い中折角来たのに、って感じ」 「そうそう」 合流した人物は、トノムラの隣に立ち、余程暑かったのか赤らんだ頬を両手で押さえている。手の平が冷たく感じるのだろう。 彼はアーサー・トライン。こちらもまったり工学部院生生活を送っており、半分はその講座の教授の助手といったところ。実は、元々彼はトノムラと同じ農学部の学生だった。しかしストレートで卒業した直後、何と工学部に入り直したのだ。そして現在は院生二年目。ちなみに工学部に入る為に一年予備校通いだった。 専門は違えど、彼らは学部生の頃からの知り合いだ。たまたま入ったサークルが同じだったのである。うまが合ったのか、今に至るまで良好な友人関係を築いている。―――トノムラが、己の恋愛関係を明かしている数少ない知己の一人だ。 そして、アーサーの方も、同じくトノムラに対して恋愛のあれこれを打ち明けている。 彼は今、禁断の愛―――の間に割って入ろうとしている、別の面から見ればお邪魔虫、であった。無論彼は別に邪魔をしたいわけでなく、たまさか惚れた相手が厄介な事情を抱えていた、という次第なのだが。つまり早い話が、惚れた女性に近づきたいが故、専門を捨てて大学生をやり直したのだ。ある意味根性があるのだろうが、いかんせん理由が理由だ。トノムラは事情を知っているが、果たしてアーサーは親や周囲に何と言って説得したのやら…。 トノムラがこれまでに聞いているのは、アーサーが惚れている相手が自分の講座の助教授タリア・グラディス女史であり、その女史が人目を憚りつつ不倫関係(女史は既婚者である)なのが、トノムラ属する農学部の若手教授のギルバート・デュランダルであると言う事。 女史と教授の関係は、知る人ぞ知るといったところか。教授陣とより近しくなる学部後半や院生の中では、密やかに噂が流れ、誰かが密会でも目撃しようものなら、専用のメーリング・リストでもあるのではないかと思わずにいられないほどあっという間に広まる。 いわゆる恋の相談をされた時、トノムラの正直な気持ちは…「よりによって」。スキャンダルは他人だからこそ無責任に楽しめるのであって、自分が当事者になるものではない。…まあ惚れた腫れたばかりは仕方ないのだが…。 せめて惚れた相手がかの女史でなければ。 せめて女が家庭持ちでなければ。 せめて不倫関係真っ最中でなければ。 …せめて、女の不倫相手があの教授でなければ。 色々とトノムラの脳裏をよぎったが、結局のところトノムラはお人よしなのである。傷心の友人が目の前にいる。それでどうして、彼に無下な態度などとれたろう。 トノムラにしてやれる事と言えば、一緒になって溜息をつくか、アーサーの想いの丈を聞いてやるくらいしかないのだけれど。 まあそんな背景があったりする。 「で、何か用?」 ついさっき携帯メールでアーサーから誘いを受けたトノムラは、一応聞いた。 恨めしそうに太陽を見上げつつ、アーサーがうん、と応えた。 「これからヒマ?」 「ん〜まあ。夕飯の支度までに帰れればいいかなって」 「じゃあ、遅い昼飯っていうか、午後のコーヒーっていうか…」 「分かった分かった、付き合うよ」 笑いながらトノムラが言うと、アーサーはほっとした顔でもう一度うん、と頷いた。 大学周辺は、当然ながら学生をターゲット層とした店が多い。飲食店は軒並み比較的安価。ファーストフードの類は並んで軒を構えているし、一年中セールを謳うファッション関係、新書と古書が入り混じる本屋…エトセトラエトセトラ。 そんな中で彼らがこのところよく足を運んでいるのが、全国チェーンを展開しているドーナツ屋だ。 木目調が目立つ店構えは、何時も大体それなりに客が入っている。 「ミネルバドーナッツ」と看板が掲げられた自動ドアを潜り、二人は慣れた様子で席を押さえる。 「お、新作」 「へえ…トウフドーナツ。豆腐?俺これにしようかな」 ディスプレイの中で飾られた新作ドーナツに目が留まったトノムラは、早速注文をする。 「あ、待ってよ、一緒に注文しようってば」 「あぁ、はいはい」 にこにこと惜しげもなくスマイルを持続させている店員に断り、アーサーの注文を待つ。 彼はウィンドゥの前で真剣な顔をしてドーナツを見分している。 「うーん…じゃあ俺は……」 (どうせいくら悩んだって、) トノムラが苦笑を浮かべると同時にアーサーは腰を伸ばし、何故か嬉しそうに店員に向き直った。 「オールドファッションと、チョコレートマフィン。でコーヒー…二つ」 コーヒーと言いながらトノムラの頷きを確認し、指を二本立てる。 トノムラの知る限り、アーサーは必ずオールドファッションを注文する。悩む時間に関係なく。 二人共煙草は吸わないので、奥の禁煙席に落ち着いた。 まずホットコーヒーを飲んだアーサーは、満足そうにカップを置く。 「真夏に涼しいところで熱いコーヒーを飲む贅沢ったらないね」 「あーそれは同感」 同じくコーヒーを一口飲んだトノムラは、早速新作ドーナツの味見にかかった。一口齧ったところで、アーサーがテーブルに身を乗り出す形で「ひそひそ話」を仕掛けてきたので、慌ててドーナツを皿に戻すと。 「あの子新人だよな」 「さっきのレジの子?―――そう、だな。うん」 トノムラ達よりずっと年下っぽかったので、きっと高校生のバイトだろう。 まだ制服に慣れないのかしきりに襟やバイザーを気にしていたが、至って人当たりは良く、笑顔を絶やさないところはとても好感がもてる。 緑の制服に、真紅のツインテールは実に引き立っている。 「可愛いと思わない?」 「え?…客観的にね」 「だよなー」 アーサーはにこにことレジの方を振り返っている。 「なんだ、あの子に鞍替え?」 「ち、違うよ!そんなんじゃないって!」 意地悪くトノムラが言うと、アーサーはぶるぶると頭を振り…ただでさえ跳ね気味の髪の毛が乱れる。 あとは、大体いつもの展開。 ドーナツをさっさと食べ終わり、コーヒーのおかわりをして、アーサーが喋って、トノムラが話を聞く。 嬉しそうに『今日のグラディス先生さ』と言う事もあれば、溜息混じりに『やっぱり無謀かなあ…』と愚痴が続く事もある。 今日は―――途中から急激に、後者へ傾き、そして。 「俺さ、ホント…本気で好きなんだよね」 「うん」 「一目惚れで、その後もずっと好きな気持ち強くなるばっかりで」 「うん」 「なんだけど…先生はきっと俺の事、ただの後輩としか思ってないんだろうなって」 「そんなの、本人以外にはわからないだろ?」 「分かるさ…だって俺はずっと見てるんだぜ?見てれば、…分かっちゃうよ」 「・・・・・」 どんよりと沈んでいる友人に、トノムラはかける言葉を探すが… 「何かもう、このままだと多分ずっと何にも変わらないんじゃないかって」 「と言っても…」 「先生と…教授がどうこうってんじゃないんだよ、ジャッキー」 「え?」 「例えもし彼女がフリーだったとしても、俺が俺のままじゃ同じだ」 「そう…かな」 「逆に言えばさ」 「逆?」 「彼女が結婚してて、その上不倫してて…だからって俺が何も言っちゃいけないなんてことはないだろ?」 「え?…ちょっと待てよ、…」 段々と目の色が変わって行くアーサー―――トノムラは友人の論理を理解しようと努力してみたが、良く分からなかった。 「つまりアーサー…お前、告白する気?」 「あぁ!今のままじゃ嫌なんだ、俺、どんどんダメになってく感じがして…だから、高望みはせずに…いや本音言えばするけど…とにかく、言うだけ言う!」 「ちょ、ちょっと待てって!とりあえず落ち着けよ、な?!」 とうとう立ちあがって演説でもするが如く語り出したアーサーを、トノムラは店内の目を気にしつつ必死に止めた。 ―――ほんのちょっとだけ、多分この友人は、己の伴侶に通ずる部分がある―――そう、トノムラは悟ったとか。 結果から言ってしまおう。 アーサーはトノムラの制止にも決意を翻すことなく、数年想い続けたグラディス女史に告白し、その場で玉砕した。 …彼の数年間を占めた想いの結末を、一文で締めくくるのは些か哀れな気もするが…。 「あ〜…」 携帯電話を耳元に寄せたまま天井を見上げたトノムラに気付いた、ノイマンが顔をあげる。 「そっか…うん、うん…や、そんなに泣くなって…分かるけどさー…」 片手には夕食を終えたテーブルを拭いていた布巾を持ったまま、トノムラはひたすら宥めるような言葉を羅列している。 そんなトノムラが気になるのか、ノイマンは新聞を開いたまま観察している。 「あぁ、あー…お前、ホント大丈夫か?え?―――ちょっと待って、折り返しかける」 トノムラが急に通話を終えたので、ノイマンはさっと視線を新聞に戻した。 「ノイマンさん、あのー…」 「ん?」 ノイマンが『今気づきました』を装って顔を上げると、トノムラは、困った顔でねだるような目をしていた。手の中で布巾が丸められる。 「あの、今の大学の友人なんですけど…その、訳有りで…何かすっごい落ち込んでるんですよ」 「ほう」 「で、えーと…」 トノムラは嘘にならない程度の無難な表現で言おうと思ったのだが、それが為される前にノイマンに遮られた。 新聞を畳み、改めてノイマンはトノムラを見る。 「下手に飾らないで、正直に言えよ」 「・・・・・」 この視線に、弱い。 エプロンも外さぬままトノムラは、ぽすんとソファの隣に腰を下ろした。 「―――長年の恋が破れた夜、か」 「ええ。まあ…うまく行く確率なんてないも同然なのはアイツ自身分かってたはずなんですけど…やっぱり凹んでるみたいで」 「だろうな」 何故かノイマンは深々と頷いている。 「例え一方的だろうと、想いが強かっただけ…辛いだろうさ」 「ノイマンさん、何かやけに…あ、いえ何でもないです」 「―――で?」 「あぁ、えっと…それで、今夜は飲むから付き合えって…」 ノイマンの目がキラリと光る。 「これが本題なんですけど。今日、彼んち泊まってきても…いいでしょう?」 ノイマンは是とも否とも言わず、ただトノムラを見つめている。何とか彼から許可をとりたくて、トノムラは言い募る。 「落ち込んでる時に一緒に飲むってのも、有りだと思うんです!来てくれって言われたら…行ってやりたいって思う位には、アイツの事友達として結構大事だし…その、念の為言っておきますけど、…う、浮気とかは絶対ありませんから!」 最後は真っ赤になって言うトノムラに、ノイマンは唐突に笑い出した。 「ノイマンさん…?」 「もう少し俺が黙ってたら、お前もっとベラベラ喋りそうだな。―――分かったよ」 「え、じゃあ…」 「こっちに呼べ」 「は?」 「お前の事信用してないわけじゃないけど、でもやっぱり心配だからな…あぁお前の友人がってより、こんな夜にお前を一人歩きさせるのが、だ。自棄酒に付き合ってやるなり何なり好きにしろよ―――うちでな」 「ノイマンさんてば…どっかズレてるよなあ…。ノイマンさんの娘じゃないんですけど、俺。…ま、全否定されるよりマシか」 客が来る前に風呂を済ますと言って、ノイマンの姿はリビングにない。 トノムラは携帯を取り上げ、リダイヤルを押した。 「―――あ、アーサー?俺だけど…」 「夜分遅くにすいません、あの、本当にお邪魔しても…?」 最寄の駅まで来た友人を迎えに行き、マンションへ戻り、玄関先で。 ドアを開けたノイマンに、アーサーは90度のお辞儀をしながら開口一番。 ゆっくりと顔を上げたアーサーを見たノイマンは、こみ上げた笑いをかろうじて堪えた。 アーサーは、既に散々泣いたのか、見事に目と鼻と頬が赤くなっていたのだ。 「構わないよ、生憎俺は明日仕事だから、休ませてもらうが…」 「ノイマンさん、とりあえず中に…玄関先で言うこともないでしょう」 トノムラの言葉で、玄関が閉められる。 「あのさジャッキー…」 「ん?」 「お前の…えーと…旦那、さん?」 でいいんだよな、と目が問う。 「へ?―――あ、ああ。ノイマンさん。うん」 トノムラは若干顔を赤らめ、前を向いたまま答えた。 「あの人に…話した?」 リビングの直前で二人は立ち止まる。ノイマンは既にリビングに入っていた。 「あぁ…ごめん、事情説明するのに、概要だけ…」 トノムラは手を合わせて言うと、アーサーは一瞬だけ口篭もり。しかしその後安堵するかのような笑みを浮かべた。 「そっか。…や、いいんだ。うん。もう…」 最初の内こそ、自分の事なのに失恋酒を他人の家で飲む事態になった事に(気付くのがそもそも遅い)恐縮して大人しかったアーサーも、アルコールが入るにつれ…感情が露になってきた。 トノムラが即席で作ったつまみを言葉通り突つきながら、缶ビールを一気飲み。 無残な姿になったオムレツを横目で見ながら、トノムラは適度に付き合う。 小一時間程過ぎ、それまで言葉少なに場に同席していたノイマンが立ちあがった。 「それじゃあ、俺は失礼させてもらうよ。ごゆっくり、トライン君」 「お休みなさいノイマンさん。ちょっとうるさくなるかもだけど…」 トノムラとノイマンはアイコンタクトを交わす―――「ごめんなさい」「気にするな」。 出来あがりかけのアーサーがワンテンポ遅れて振り返り、 「お休みなさいませご主人!」 「ごっ…あ、あぁ」 真っ赤な顔で何故か軍隊風の敬礼をしてくるアーサーに、ノイマンは苦笑しつつ返した。 「ジャッキーぃ〜…聞いてくれよ、俺の、涙のわけを!!」 「はいはい…それもう三回目だけどな…」 無論酔っ払いに道理は通じない。 「つか、グラディス先生さ、マジ綺麗っつか可愛いっつか、ぶっちゃけいい女過ぎね?」 「うん、そうだねー」 「もーさー、惚れない方が嘘なんだよね、彼女!」 「う、うん…?」 答えにくい会話の流れに、トノムラは缶を傾ける事で誤魔化したり、なかなか必死だ。 そうして酔っ払いは、唐突に泣き出したりする。 「ぐすっ…」 俯いて、空になっていたビールの缶を握りつぶすアーサー。 「俺ね」 「うん」 「先生が一人んトコ行って、ずっと好きだったんです、本気で…って言ったんだ」 アーサーは俯いたままだったので、トノムラは用済みになった皿や空の缶を片付けながら相槌を打つ。 「そしたらさ…そう、って。こっち見もしないで、ずっとパソコンに向かったまま、そう、ってたった一言!」 「そりゃ…」 「あんまりじゃね!?そりゃさ、先生が俺の事眼中にないだろうっての分かってたけど、それにしたって、…二文字で終わりって…二文字…にもっ…!」 ―――さぞや見事な玉砕だったに違いない。トノムラには、その時の友人の表情がありありと想像できた。きっと―――半笑いで、口が半端に開いて、何回か連続で瞬きして、それから…真っ赤になって、真っ青になる。もしかしたら、涙目にもなったかもしれない。 可哀想に、とは思うが…トノムラには一緒に飲んでやるくらいしかできない。何しろ今回の事に、トノムラの感情は関係ないのだから。 ついに全開で泣き出した友人を宥めつつ、トノムラは更けていく夜を過ごして行った…。 散々愚痴って飲んで泣いて、アーサーはリビングのソファで潰れた。 友人に毛布をかけてやり、多少酔った程度のトノムラはそうっとテーブルの片付けをした。 夜中なので洗い物は翌朝に回すことにして―――洗顔と歯磨きだけ済ませたトノムラは、寝室のドアを音を立てずに開けた。熟睡しているであろうノイマンを起こさない様。 ダブルベッドなので、後から潜り込もうとすると、どうしても相手に振動を与えてしまう。 トノムラは最大限の注意を払って、枕まで辿りつく。 奥を向いたまま寝息を乱さないノイマンを確認し、ほっと一息。 「…今日はごめんなさい、ノイマンさん。でも、…ありがとうございます」 独占欲の強いこの男が、自分の友人関係を大事にしてくれたことへの感謝―――極小さく、囁いた。そして本当に微かに、頬にキスを落す。 さて、自分も寝ようと―――トノムラが顔を離そうとした瞬間。 「やっとお休みのキスだな」 神業もかくや…瞬間的に体を向けたノイマンが、まだ間近にあったトノムラの顔を引き寄せた。 「ノ―――ノイマンさん、起きてたんですかっ?」 「寝てたよ。でもお前の気配は寝てても分かる」 「…んもう…うるさくしたのは申し訳なく思いますけど、」 「本当だって、今の今までは寝てたさ」 もう一度キスをして、ノイマンはそのまま―――トノムラを抱き締める形で姿勢を変えた。 「―――ヤりませんよ?」 「分かってるよ」 信用ないなあ、とノイマンは苦笑するが…彼の場合信用がなくなっても仕方ないだろう。 「彼は?」 「ソファで寝てます。かなり飲んだし泣いたんで…明日酷い顔だと思いますけど、勘弁してやってくださいね」 「―――ちょっと嫉妬するなあ」 「え?」 「俺は絶対彼みたいな理由でお前に付き合ってもらう事はないだろうからな。経験できないかと思うと」 「…何言ってんですか。失恋自棄酒なんて、経験ないならないに越した事はないでしょうが」 「―――あるぞ」 「そうなんですか。…えっ?」 意外や意外な言葉に、トノムラは思わず身を離してノイマンの顔を凝視した。彼は澄ました顔でうそぶいた。 「ほら、俺が卒業した時。お前別れ話切り出したじゃないか。あの日は―――そりゃもう、飲むわ泣くわ吐くわで酷かったんだぞ」 「…それは、……ノイマンさん、そんなにショックだったんですか?」 照れの所為か、もぞもぞと毛布に埋まりながら、トノムラが問う。 「思い出すだけで涙が出そうになるくらいな」 「…ホントに、」 「―――吐いたってトコだけ嘘。二日酔いにはなったけど」 「…じゃ、泣いたのはホントですか」 「・・・・・」 「ノイマンさんってば?」 「お休みトノムラ」 「あ、はぐらかして…」 二人がそんな、相変わらずのイン・ザ・ベッド模様を繰り広げている頃―――隣のリビングではアーサーが、寝言で恋しい女性の名を呟きながら、アルコールに浸った夢を見ているのだった。 そもそもタイトルで結果がバレてます(笑)。 ジャッキーとアーサーが仲良いのは楽しいです…そしてアーニィは嫉妬。 2005/2/6 雪里 |